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Spotifyが黒字シンフォニー 成長へ「リミックス」、反転攻勢のビートを刻め

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 Spotifyが黒字転換を機に反転攻勢のビートを上手く刻んでいる。同社は2024年第1四半期の決算発表で、来期の営業利益を2.5億ユーロとし、2期連続の黒字を見込む。実現すればこの数年間続けてきた経営改革の最終出口を迎えることになる。ただそれは、「ゴール」であるとともに、黒字化に向けたシンフォニー第2番に立つ「スタート」でもある。慢性的な赤字に苦しんだ15年間を乗り越え、成長分野に貴重な資金を振り分けられるかが今後の焦点だ。

スポティファイ本社 ベルリン ドイツ

 2024年第1四半期の売上高は36億3600万ユーロと、アナリスト予想の35億8000万ユーロからのプラス乖離は1.3%にとどまった。営業利益などは会社予想も下回ったが、同社の株価は終日強気に推移し、終値は11%高の303.31ドルだった。2021年以来、およそ3年ぶりの株価水準を回復した。

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 「2030年にMAUを10億人まで伸ばす」
ーー 2年前の同じ時期、最終利益(純利益)で黒字を達成したSpotifyの株主集会で、ダニエル・エクCEOから少しテンポが速いとも取れる強気発言が飛び出した。コロナの反動を乗り切り、安定的な成長軌道に乗ったと思われたあの時だ。
ただ、待ち構えていたのは世界的なインフレの波や人件費高騰だった。楽観的な見通しから徐々に「ズレ」が生じ、第2四半期からは再び赤字を拡大する厳しい状況に追い込まれた。投資家の期待を受け止められず、株価は2023年中頃、1/5まで低下した。

 今回も一時的な黒字化にとどまり、同じ轍を踏んでしまわないのか。意外にも「今度こそ赤字から抜け出し、安定的な黒字経営に持っていける」と市場関係者は期待一色の大合唱だ。「2023年第3四半期の時点で慢性的な赤字は抜け出している。今回はあくまで定期診断にすぎない」という。

 データを見てみると、毎月のアクティブユーザー数(MAU)は34%積み増した。前期には季節要因を入れたMAUの伸びが過去最高だった。今期は経営改革などでMAUが予想を下回ったものの、増加傾向にあることは変わりない。AIなどを利用したプレイリストを導入し、総再生時間も増加。広告事業などにも力を入れた。2年前と比較しても地合いが整っている。

Netflixの教訓生かせ、Spotify

 「アレと同じ道は行かないという強いプライドがあるのだと思う」。Spotifyを何年間も観察してきた関係者はそう考察する。「アレ」とは、市場の評価が冷え切っているNetflixだ。同社はDVDレンタル事業(Qwikster)を祖業としているが、2007年にSpotifyと同様のサブスクモデルを展開した草分け的存在だ。違う分野同士ではあるものの、業界トップのシェアを誇るなどいくつか共通点もある。GoogleやAppleのアプリストア経由での支払いを拒むなど(現在はSpotifyがUCBをテスト中)、巨大ITの寡占状態に反発する姿勢も重なる。

 そんなNetflixは今、コロナ禍に需要を吸い切ったことで成長フェーズが終焉を迎え苦しんでいる。競合サービスと泥臭くユーザーを奪い合い、ユーザーの純増数は鈍化どころかマイナスになった。スポンサー付きの廉価プランを導入し、今期(2024Q1)は増加したものの、この勢いを維持してユーザー数が増え続けるとは考えづらい。来年からはユーザー数の発表すら取りやめる。

 決算発表後の反応もSpotifyとは真逆だ。ユーザー数は市場予想の約2倍まで積み増したが、株価は7%下落した。来年からユーザー数の発表の取りやめる代わりにARPU(一人当たりの課金額)などに重点を置くとしたが、市場は「自ら『もうこれ以上ヒットを飛ばすことはできません』と言っているのと同義」と受け取った。自社の将来性を十分に示せなかった。

 元々、稼ぎ頭である北米やヨーロッパの成長は鈍化傾向にあった。アフリカやアジアなどでの市場開拓を怠った結果、国内企業や競合に先を越された。ただ競合であるDisney+も急激に成長スピードを落とすなど、市場自体、暗雲が漂っている。

 対して音楽市場はどうか。実は音楽市場の市場開拓はまだ始まって数年しか経っていない。1999年時点の市場規模は222億ドルだったが、2023年の市場規模は286億ドルだ。四半世紀でわずか28%しか拡大していない。

 ただこれが、常に緩やかに成長してきたというわけではない。違法ダウンロードなどの蔓延で、音楽市場は2014年に130億ドルまで縮小しているからだ。そこからわずか9年で120%の成長を見せているのだから驚異的な成長スピードだ。急激な拡大を支えたのはもちろんSpotifyをはじめとしたストリーミングサービスで、1999年の市場規模を超える主役になった。今も年10%のスピードで市場拡大を続ける。

 つまり、違法アップロードが大幅に減少し、著作権料の支払いが適正に行われるようになってからの市場拡大はまだまだ始まったばかりだ。拡大余地はまだ十分にあり、アジアやアフリカはそもそも開拓が進んでいない。

 これまでと今後数年間は市場自体が拡大するにつられてサービス利用者は拡大すると見られる。これが、シンフォニーを奏でる一つの鍵になる。Netlifxのような未来はまだ来ない。

黒字化で見据える「ロスレス」

 鍵はもう一つある。2021年に開発を約束した「Spotify HiFI」、俗にいうロスレス技術だ。現在のSpotifyの音質は最大320kbps(1chあたりの情報量)程度だが、これを1400kbpsほどまで増幅させる。音質にこだわるユーザーには欠かせない機能で、AppleやAmazonなどのビッグテックは、強力な資金力を背景にレーベル各社の契約を取り付け、すでに展開している。

 データ量が膨大になる上、契約面などでもさまざまな変更が必要だ。Spotifyも当初は2021年中のリリースを予定していたが、レーベル各社との交渉が難航し、いまだ実現できていない。ただ、業績が改善し、安定的な収益が見込めるようになれば、交渉の余地も広がるだろう。

 黒字化によって、新機能開発や新市場開拓に向けた投資余力が生まれる。最新のリーク情報によると、Spotifyのロスレス音質は「Music Pro」という追加オプションの一部として提供される可能性が高いという。これは、DJ リミックス機能とともに導入されるとみられ、利用者はトラックを新しい方法で加工できるようになる。「Music Pro」はSpotify Premiumに上乗せする形で提供され、料金は未定だ。

 ロスレス音質の実現に向けて、Spotifyは紆余曲折を経てきた。当初は「Spotify HiFi」として知られ、その後は「Supremium」という高価なサブスクリプションの一部になるとうわさされていた。しかし、戦略を再び転換し、追加オプションとして提供する方針に落ち着いたようだ。

 コードによると、Spotifyのロスレス音質はFLAC形式で最大24ビット/44.1kHzをサポートする。また、特許技術を使用してヘッドフォンの音質を最適化する機能も計画されており、AppleのAirPodsが言及されている。「Music Pro」ではムードやジャンルなどによるライブラリのフィルタリング機能も強化される見込みだ。

 ロスレス音質の提供開始時期は依然として不明だが、コードからは着実に準備が進んでいることがうかがえる。同社は、有料会員の満足度を高め、他社との差別化を図るために、音質面での改善に注力している。ロスレス音質の提供は、プレミアムプランの価値を高め、ARPUの向上につながる可能性がある。

 さらに、ポッドキャストなどの非音楽コンテンツへの投資も加速するだろう。音楽市場の成長とは別の収益源として育成することで、より安定的な成長を目指せる。

 一方で、競争激化によるコンテンツ獲得コストの上昇や、レーベルとの交渉におけるロイヤリティの引き上げ圧力など、収益性を脅かすリスクもある。グローバル展開を加速するためには、各国の規制への対応も欠かせない。

 Spotifyは、創業以来ユーザー体験を重視し、パーソナライゼーションやプレイリスト機能の充実によって他社との差別化を図ってきた。ポッドキャストへの注力や、AIを活用した新機能の開発にも余念がない。

 Spotifyは、長年の赤字経営から脱却し、「黒字シンフォニー」の第1番を奏で切ることに成功した。競争激化や規制への対応など、課題は山積みだが、Spotifyは着実に前進しているようだ。
ただこれは、始まりに過ぎない。ロスレス音質の実現、ポッドキャストへの注力、AIを活用したポッドキャストといった「第2番」以降で「反転攻勢のビート」を上手く刻めるだろうか。創業以来、ユーザー体験を重視し、音楽業界をリミックスしてきたSpotify。世界中の音楽ファンが、そのビートに耳を傾けている。

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