アニメ制作者の年収「民間平均並み」は本当か 当サイト試算
アニメ制作者の平均年収は455万円――。業界団体の日本動画協会(AJA)が昨年12月に公表した「アニメ産業レポート2024」では、同じく業界団体の日本アニメーター・演出協会(JAniCA)の調査結果を引用して、こう指摘した。さらに「制作者の平均年齢と昇給を考慮すると、実質的に民間平均の年収(458万円)を上回る」と分析した。また、著作者の権利保護のために立ち上げられた文化庁の審議会では「年収1000万円以上の割合は民間平均5%を上回る11%であり、平均年収も踏まえればアニメ制作者の環境だけが突出して悲観的な状況にあるとはいえない」と踏み込んだ。
経済産業省が6月に発表したエンタメ・クリエイティブ戦略には、同じくJAniCAの調査を引用した上で、「これまで就業環境等に関する正しい発信が行われていなかったため、若手人材の参入の妨げとなっている」との文章が盛り込まれた。現場の労働環境が改善しているかのように映った。
しかし、現場の実態はこのデータほど明るくない可能性がある。AJAがレポート内で指摘しているとおり、第二原画(平均年収155万円)や動画(同263万円)といった、若手が多い職制の平均年収は極端に低い。
(JaniCAアニメーション制作者実態調査2023より一部抜粋)
監督 | 787万円 |
キャラクターデザイン | 586万円 |
原画 | 399万円 |
動画 | 263万円 |
第二原画 | 155万円 |
国が引用している数値は果たして実態に即しているのか。そもそも元データであるJAniCAの調査は、監督やプロデューサーといった年収が高い職制の回答割合が、実際の制作現場での労働投入シェアに比べて大きい。一方、現場労働の大部分を占める原画や動画の回答割合は少ない。この歪みが平均値を押し上げている可能性はないか。当サイトは複数のデータを使用してより実態に近い平均年収の算出を試みた。
労働投入シェアとは、テレビアニメ1タイトルの制作に投入される「全ての人の労働時間の合計」に対し、原画や動画、監督といった各職制が占める労働時間の割合を表す指標。特定の職制がテレビアニメの制作にどれだけ貢献しているかを、労働時間の観点から見ることがでいる。
当サイトは、①各職制の時給に労働投入シェアを掛け業界平均労働時間を乗じる手法、②さらに職制別従事者数を推計して加重平均した手法の2つを用いて試算した。①では約375万円、②では約360万円となり、JAniCA公表値を80〜90万円下回った。なお計算式上、前者はテレビアニメ制作に投入される労働時間総和を年収換算したもので、個々の労働者の平均年収を直接示すものではない。
アニメーターの成り手は年々減少している。日本総研の試算によれば、政府が掲げる海外輸出目標を達成するには、現状の生産性を前提とすると2033年までに3万人の制作者が必要となる。しかし、現在いる制作者約6200人は30年に約5600人まで減少する見込みで、3万人の人材獲得は絶望的だ。
当サイトの試算を踏まえれば、「民間平均並み」の年収はサンプル構成や職制格差を無視した数値にすぎない。歪んだデータが広まれば、国が目標に掲げる「クールジャパン戦略」にも影響を与えかねない。海外輸出約6兆円のうち、アニメは3割程度を占める。実態を無視した現状認識に胡坐をかき、賃上げが進まなければ、持続的な制作体制の維持は不可能だ。日本アニメがハリウッドや中国アニメとの競争力を保つには、まず実態を直視する必要がある。

