知財戦略、IP変革で新次元へ 政府が推進計画を策定
【東京本局 = エンターテインメント】政府の知的財産戦略本部は3日、「知的財産推進計画2025」を決定した。24年に策定した計画を土台としつつ、新たに「IPトランスフォーメーション(IPX)」を前面に打ち出し、国際競争力強化と社会課題解決に向けた知財戦略の転換を産学官で連携して進めると表明した。重点施策には重要業績評価指標(KPI)を新たに導入し、従来計画から実効性と成果志向を強めた。AI(人工知能)の利活用、国際標準戦略の強化、スタートアップ支援の拡充などが柱となる。

「IPトランスフォーメーション」を中核に据え、グローバルな視点での知財の創造・保護・活用サイクルの再構築を目指す。想定される具体例として、「イノベーション拠点としての競争力強化」「AI等先端技術の利活用」「グローバル市場の取り込み」を挙げた。日本の知的資本(技術力、コンテンツ力、国家ブランドなど)を最大限に活用し、海外からの知的資本誘引と国内での付加価値創出を加速させる。24年計画では「知的創造サイクル」の原点回帰を掲げたが、2025年計画ではこれをIPXへと昇華させ、よりダイナミックな変革を促す。WIPO(世界知的所有権機関)のグローバルイノベーション指数で35年までに上位4位以内、国内市場の時価総額に占める企業の無形資産の割合を同年までに50%以上に底上げするとぶち上げた。
24年計画から重点施策の内容を大幅に深化・具体化させた。知的財産の「創造」段階においては、AIと知的財産権の関係をより深く掘り下げた。「AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ」(24年5月)を踏まえ、法・技術・契約を組み合わせたエコシステムの実現を目指す。AI開発者の発明者としての評価や、AI利用発明の明確化も課題として挙げられた。また、「知財・無形資産ガバナンスガイドライン Ver2.0」の活用推進やインパクト投資の呼び込みによる価値創造、博士人材の活躍促進やダイバーシティ推進による創造人材基盤の強化も掲げた。
知的財産の「保護」段階では、技術流出防止策として不正競争防止法の改正(24年4月施行)や「技術管理強化のための官民対話スキーム」(24年12月施行)など、近年の法制度の進展を反映した。海賊版対策では「インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表」の更新(25年5月)や官民連携会議の活動に触れ、特にベトナムやインドネシアでの被害対策強化を打ち出した。産業財産権制度では「リヤド意匠法条約」への対応や医薬品データ保護制度の法制化検討が新しい。地域知財保護では、中小企業庁も参画した「知財経営支援ネットワーク」の強化や「知財経営支援モデル地域創出事業」の開始など、中小企業支援策が拡充された。
知的財産の「活用」段階では、産学連携の推進に向け「大学知財ガバナンスガイドライン」の実践における課題認識と「大学等研究者の転退職時の知財取扱い指針」の運用を開始。スタートアップ支援では、知財戦略支援人材の不足を背景に、INPITのスキルマップ活用やVCへの専門家派遣(VC-IPAS)の対象拡大を盛り込んだ。特に注目されるのは「新たな国際標準戦略」の大幅な拡充だ。24年計画の「標準の戦略的活用の推進」から独立した節となり、国際社会の課題解決や経済安全保障への貢献を視野に、環境・エネルギー、デジタル・AI、量子など17の重要領域と8つの戦略領域を選定。官民一体での戦略的推進とモニタリング体制の構築を掲げた。データ流通・利活用環境整備では、「プラットフォームにおけるデータ取扱いルールの実装ガイダンス Ver1.0」の利用促進に加え、デジタル行財政改革会議下での基本方針策定(25年6月目途)など最新動向を反映した。
クールジャパン戦略では、24年計画の進捗と今後の方向性を確認した。「コンテンツ地方創生拠点」の選定目標(2033年までに全国約200カ所)や、コンテンツ産業官民協議会を通じた司令塔機能の充実化を図る。海外市場規模20兆円目標(33年)の達成に向けた施策を引き続き強化するほか、「デジタルアーカイブ戦略 2026-2030」(25年5月策定)に基づくジャパンサーチの機能強化目標なども盛り込まれた。
石破首相は3日に首相官邸で開いた知的財産戦略本部に出席し「我が国の稼ぐ力の源泉である知的財産と技術は、企業の競争力を確保する上で極めて重要であり、知的財産推進戦略に盛り込んだ取組を政府として速やかに実行していく」と述べた。首相が力を注ぐ地方創生では「アニメツーリズムやロケ誘致など、地域一体となった取組を加速し、地域経済の活性化を図る」と強調した。