Nothing Phone(2)発表。弱小メーカー参入の難しさ。
【旧東京総合(2023) = 論説】7/11、イギリスの新興メーカー「Nothing」が新型スマートフォンNothing Phone(2)を発表した。初代から大幅に強化されたスペックと一般人には到底理解されないこだわりは、SONYやSHARPの牙城を崩せるのか。
Nothingはどんな企業
まず、Nothingとはどのような企業なのか。軽く説明したい。
こういうときに便利なWikipediaには以下のよう記載されていた。
Nothing Technology は、イギリスのロンドンに拠点を置くデジタル機器メーカー。 中国本土のスマートフォンメーカー「OnePlus」の共同創業者であるカール・ペイによって2020年10月設立。
Wikipedia.org
まあ、元スマホメーカーの共同創業者が設立した独立企業という認識で大丈夫だ。
Nothingは人と技術の間にある障壁を取り除き、シームレスなデジタルの未来を創造することを使命としているらしい。
ラインナップはイヤホン、スマホ、充電器など、ガジェット全般。
Nothingが発売する製品は共通して「スケルトン × 白LED」というデザイン(コンセプト?)を搭載している。
簡単に言えば、ガジェオタの厨二心をくすぐる製品を作りまくっているということだ。これを世間一般的に「理解できないこだわり」というのだろう。
言わずもがな、筆者はくすぐられまくっているのだが。
Nothing Phone(1)
Nothingが初めて発売したスマホがNothing Phone(1)だ。その後継が今回発表された(2)。
Nothing Phoneは(1)の発表時、やはりそのデザインからかなり界隈は盛り上がった。
スケルトンと白LEDという、最近の、凝り固まったスマホとは一線を画す画期的なコンセプトとだったことに加えて、UIもしっかり作り込まれているのがより評価を上げた。ガジェオタを惹きつけた。
白LEDの、いるのかいらないのかよく分からない機能も加わり、まさにロマン全開というスマホになった。
そんな素晴らしい製品の後継となればガジェオタは興奮を隠しきれない。
発表された瞬間、しじょうは沸いた。日本だけでなくアメリカでも沸いた(多分)。筆者も半ば興奮状態で見守っていた。
Nothing Phone(1)と(2)の比較
まずは、(1)と(2)の性能の比較だ。ただ、こんな一部の限られた人しか興味のない機種なので、すでに知っている人が大半だろうから、サクサク行こう。
Nothing Phone(2) | Nothing Phone(1) | |
---|---|---|
SoC | Snapdragon 8+ Gen1 | Snpadragon 778+G |
カメラ | 広角 ・5000万画素 ・1/1.56インチ 超広角 ・5000万画素 ・画角114° ビデオ性能 ・Full HD 60fps ・Ultra HD 60fps | 広角 ・5000万画素 ・1/1.56インチ 超広角 ・5000万画素 ・画角114° ビデオ性能 ・Full HD 60fps ・Ultra HD 30fps |
ディスプレイ | 6.7インチ 120Hz可変 Full HD+ 394ppi | 6.55インチ 120Hz可変 Full HD+ 402ppi |
ROM+RAM | 8GB+128GB 12GB+256GB 12GB+512GB | 8GB+128GB 8GB+256GB 12GB+256GB |
バッテリー | 4700mAh 45W急速充電 | 4500mAh 33W急速充電 |
ワイヤレス充電 | 最大15W 逆充電最大5W | 最大15W 逆充電最大5W |
重量 | 201g | 193g |
価格 | ¥79,800- | ¥73,800- |
カメラ周りのスペックが想像以上に変わらなかったことと重量が増えたこと以外はアップデートされている。堅実な進化を遂げたと評価していい。最近のスマホはそもそもの完成度が高すぎて指摘できるほどの欠点がないのが困る。ある程度の価格帯を突破すればどれを買っても満足できてしまう。
強いて言えばバッテリーの容量とかストレージの増量とかチップの高性能化でかなり画面サイズと重量が増えてしまったのが難点というほどでもないが、残念だ。
円安フィーバーでガジェット機器全般が値上がりしている最近で、価格が6000円しか上がらないというのはかなり頑張っている。いや、性能も大幅に上がっていること、バッテリー持ちも改善していることを踏まえると、頑張っているとかのレベルじゃない。身を切り崩す覚悟で価格設定しているのでは、と心配になってくる。
ただ改めて考えると、過去のAnkerや今のGoogleのようにブランドというブランドの地位を確立していないブランドは、コスパで勝負するのは当然の方針かもしれない。というか、成熟しきった市場で一石投じるにはそれくらいしか手段がないとも言える。
ブラッシュアップしたOS
他にも、進化している点はいくつかある。例えば、UI。もともと、特殊なUIを採用していたNothingのスマホだが、今回そんなNothing OSが2.0にアップデートされる。主な新機能と改善点をピックアップしてみよう。
組み込まれるベースのAndroidバージョンが12から13にアップデート。アプリロゴの最適化に加え、アプリの名前を非表示にすることも可能になった。何気に邪魔なGoogleの検索バーも直感的な消去が可能に。
ウィジェットやアプリロゴも、ドット絵表示に。見にくいと言われたらそこまでだが、かなり洗練されている印象だ。アプリフォルダーも色々形をいじれるみたいなので、GalaxyやOPPO、Xiaomiの使い勝手に迫ることができていると言えそうだ。
続いて背面LEDなのだが、先に言っておきたい。そもそも、今のiPhoneやPixelが究極で完璧なスマホだ。当然ながらそいつらに背面LEDはついていない。つまり、結論を「無駄な機構」である。それを踏まえた上で見ていきたい。
前機種と同様にバッテリー残量の確認などができるようだが、逆に言えばその程度しかできない。必要かと言われれば必要ないだろう。
しかし、重要なのは「光ることに意味がある」だ。別に光ることで得られるメリットなんてないに等しい。だからiPhone様は搭載していない。
ただ、ガジェオタはそんなこと事実は眼中にない。「光るからいい」「ロマンの領域」というふうにしか機械を見ない。光っていることに意味がある。
新興ブランドがぶち当たる壁
基本的にどの市場でもそうなのだが、新たなブランドというのはブランドとして認知されるのが難しい。特に、それは成熟した市場の方が顕著である。以前の記事で書いたので詳しくはそちらを見ていただきたいのだが、スマホ市場ほど成熟しきってしまい、参入の難しい市場はないだろう。
Appleという時価総額400兆円を超える世界一のブランド企業が牛耳っている市場ほど、新興ブランドが嫌うものはない。iPhoneという、「なんとなく大丈夫そう」という絶対的な安心感は何よりの武器になる。
エンドユーザーが市場の9割を占める中で、残りの1割にどうアプローチするか、ましてや日本という恵まれている国では、それは新興ブランドを最も悩ませる課題だ。
古参も同じ課題に直面している。例えば、SONYやSHARPは一部のオタクというかこだわりの強いユーザーの声を聞くというビジネスモデルを確立した。ガラパゴスと揶揄されるように、日本企業は昔からそういう一部の市場だけを見るのが得意だった、というのもあるだろうが。他にASUSやGoogleなどの新参(部分的に古参)は、コンパクトやコスパで攻めている。
コスパというのは、エンドユーザーにもアプローチできる最強のカードである。
iPhone14が12万円程度する昨今、Pixelはコスパを武器に国内シェアシェアをわずか2年でAndroidトップに上り詰めるまでに成長した。
ではNothingはどうか。Nothingは「スケルトン」という、ガジェオタ厨二男子を惹きつける方針をとっている。これは、こだわりであると同時に、iPhoneという絶対王者が存在する市場において「生き残るため」の戦略であるとも言える。
もはやiPhoneのような基盤を築くことは難しいのだから、一部の信者を囲い込むというのはあながち間違っていない。これは、ASUSやSONYなども全く同じ考え方をしている。GoogleやSamsungという、Android界でも絶対王者がいる市場で、もはやスマホ市場で競争原理は働いていない。
Nothingを含め弱小企業はどのようにして市場の注目を浴び続けるのか。前回の記事でも言ったが、こういう企業はガジェオタや信者に見捨てられたら終わりである。
わがままな彼らの言うことをどこまで聞くことができるのか。
Nothingはスペックを上げ、バッテリーも増やした。次はおそらくカメラだろう。
今時貴重な彼のような挑戦的な企業が、潰れないような市場になることを期待しつつ、背面にLEDを搭載するくらいしか差別化のできなくなったスマホというガジェットに悲しみを覚える。
最後に、「背面LEDとかダサ。カッコ悪い」と一ミリでも思った人は、夜道に気をつけた方がいいだろう。
(NAMITEN)